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ポール・スミザーのTool Shed便り#002 野草との出会い

ナチュラルガーデンズMOEGIのあちらこちらで、今、美しく咲き誇る八ヶ岳南麓の野草たち。健やかに群生する可憐な姿は10年の歳月を掛けてつくられた豊かさだ。かつて八ヶ岳を彩っていた野草たち、残念ながらガーデンから一歩外に出て野山を探しまわってもなかなか出会うことができない。開発や経済優先の生活により八ヶ岳の大自然は急激に劣化し、風景も生態系もすっかり変わってしまったんだ。私と野草たちとの偶然の出会い、ほんの数粒の貴重な種子を手に入れることができた奇跡。人は自然を壊すだけでなく、つくることもできるってことを伝え続けたいんだ。

登山道を登っていると足元がぬかるんでいて、ここは、と見上げると切り立つ巨大な岩肌にタマガワホトトギスがが咲いているのを発見した。そこは絶壁、人や動物にはどうにも手の届かない場所。諦めかけていたある時、別の渓谷で出会いほんの数粒の種が手に入った。

山頂に近いざれ地のフジアザミの自生地を訪ねた。こんなに尖って痛い大きな葉っぱはシカは食べないだろうとたかをくくっていたが、食糧不足でどうも食べているらしい。分けてもらった種から苗をつくり自生地に近い環境を作って植栽すると、どんどん自分の好きな場所に広がっている。

ガーデンをつくり始めた頃、広場の周りは『開拓の鐘』や『メリーゴーランド』が隠れてしまうほど、暗い森になっていた。地面に光が届かないので野草の花はほとんど見ることができなかったんだ。でも、ひょろひょろのコオニユリの花を見つけた時、希望が湧いてきたんだ。その後、多くの木を間引いたり切り戻したりして、理想的な森づくりをしながら種から育てた苗を植栽していった。

いつものように野草の姿を探しながら運転していたのだけれど、森に向かっているつもりが、一面のレタス畑に出てしまったんだ。作業している人たちが訝しげにこちらをジロジロ、レタス畑の向かい側はカラマツ林。焦ってここから抜け出そうとした瞬間、青い花が目に映った。車から降りると今度はシカたちがピーピーと警戒音を出してこちらを見つめているではないか。日本に来て自然の中で生きているヤマトラノオをこの時はじめて見た。秋に再び行ってみると、若木に守られてシカに食べられずに残っていたたったひと株が種をつけていた。

 

オオビランジの貴重な自生地を訪れた。大きい岩がいくつかあって、砂利の中にほんの10株があるかないか。。いつ絶滅してもおかしくない状況にあることはすぐにわかった。11月で種は飛び散った後だった。ここではこぼれ種で発芽する確率はかなり低い。地面にひざまずいてよく見ると種が入っていた房らしいものが見つかった。中を探ってみると数粒の種が残っていた。

山間の細い道を散歩していると大きな黄色い花が一輪だけ咲いているのを見つけた。他所で見たことのない花だったので、種をまいて見たいと思った。オオダイコンソウ。そろそろ種ができている頃かと行ってみると、残念なことに草刈り機で刈られてしまった後だった。諦めきれずに刈られた草を調べてみるとそれらしい種の房を見つけることができた。まだ緑色だったが、何とか少しの熟した種を確保することができた。翌年からはその散歩道には2度と咲くことがなかった。

擁壁から突き出た排水パイプの中からたった一株のクガイソウが花を咲かせていた。かつては草原が広がって野草の宝庫として有名だった場所。今では、草原は暗い森に変遷し、林縁に残る野草もシカによって食べられてしまっている。

 

八ヶ岳南麓の美しい野草たち、激減しているからといって、性質が弱いわけでは決してないんだ。その植物が好む場所を見極めて植栽すれば、逞しく自立して生きていく。ナチュラルガーデンズMOEGIにいろんな環境をつくっているのは、さまざまな野草たちに居心地のよい住処を提供したいからなんだよ。