• 庭でゆっくり過ごそうよ

ポール・スミザーのTool Shed便り#003 奇跡のような高原の6月

6月といえばイギリスでは最高の季節、みんなが大好きな「early summer」だけど、日本では「梅雨」の季節。暗くてジメジメして、どうもあまりよいイメージではないようだね。でも、私は、世界中のどの6月よりも、日本の高原の6月が好き!

ナチュラルガーデンズMOEGIは特に朝。地元の石を積んでつくった花壇に、新鮮そのものといった若葉たちの鮮やかな緑が綾をなし、新芽の淡い黄緑や紅色、花々の空色や青や紫、朱、ピンク、黄色の濃淡が陽の光に踊る…。もう、これほど心を震わせる美しさは無いくらいに、どの植物たちにも勢いと、しっかりした個性があり、まだ小さな生き物たちにも食べられていないありのままの姿を、じっくり楽しめるんだ。例えるなら、旅の初日の気分。気持ちは未来に向けて高揚したまま、まだ疲れも感じていない、庭全体があの素敵な感じなんだ。

さて、低地では春の花々が咲き終わり、すっかり落ち着いてしまうけれど、標高1200mの高原では、この6月に、春のにぎわいと初夏の成熟が一気に訪れる。チョウジソウやコアヤメ、フウロソウなどの花を、今この時季でも見られるのが高原の庭の魅力。また、中旬からはさまざまな種類のバラが咲き始め、冷涼な気候ならではのバラと多年草の美しい組み合わせを見ることもできる。

そして、植物たちのその成長のスピードときたら、まるで早送りの映像のよう! 1日で見違えるようになるんだ。植栽されるのを待っていたギボウシの苗たちも、庭に深植えされて1週間もたてば、古株との見分けがつかないくらい大きな葉を広げる。株分けした5cmほどのヤマブキソウも1週間で20cmの高さに成長し、名の通りのヤマブキに似た可憐な花を咲かせたよ。このように、高原には低地の時間感覚では計り知れない魔法の時間が流れるんだ。

植物たちの成長がとても早いので、一週間もたつと、同じ庭とは思えないくらい景色が変わる。この劇的な、感動的な変化を見逃してしまうのは本当にもったいないこと! GWや夏休みに比べて観光客も少なめで、庭の最高の状態を静かにゆっくり見ることができる穴場のこの時季。植物が好きな人には、毎日とは言わないけれど、少なくとも毎週一度は訪れて、6月の高原の「奇跡」を共に味わってほしいと思う。

ナチュラルガーデンズMOEGIも着工から12年がたち、無農薬・無肥料で八ヶ岳の在来種もタネから大切に殖やして数多く植栽してきた。乱開発と環境変化により野や山で野草が激減している昨今、地域の野草の遺伝子を保護する重要な役割も担っている。13年目の今年は、毎夏ガーデンの真ん中で開催される野外バレエ『フィールドバレエ』の舞台の周りを全面的に見直し、新しい花壇を作っている。このように、広い庭の各エリアごとに環境や経過年数が異なるので、植栽の違い、成長の段階を観察するのも楽しみの一つだよ。この高原の庭が、人にも自然生態系にも優しい、持続可能な庭づくりの事例として、多くの方の参考になればいいな、と思っている。