• 庭でゆっくり過ごそうよ

ポール・スミザーのTool Shed便り#004 見えない土木工事

ナチュラルガーデンズMOEGIの南側を流れる小川には、今日もたくさんの小鳥たちが集まっているよ。ここはかつて、駐車場に沿った舗装路で、ある時、路の下にコンクリートで塞がれた流れがあることを知り、いつかその小川を復活させようと決意したんだ。

暗渠の蓋とU字溝を取り除き、川底には高低差をつけて、いくつかの大きな石を配し、小ぶりな石を敷き詰め、多様な多年草が生きられる環境を用意した。そして周囲にも低木類や多年草を植栽し、日向と日陰が混じり合う、風の流れを感じられる場所をつくったんだ。周辺に集まる小さな生き物たちと共に、子どもたちの記憶の中にしっかり残るような風景になるといいな、と思っているよ。

私は南イングランドのメイデンヘッドという町で生まれ育った。家のそばにはテムズ川が悠々と流れ、夏になると、妹や友だちと泳いだり、ボートで川下りをしたり、釣竿を下げたりと、思いっきり水辺で遊んだものだ。週末になると、必ずテムズ川沿いの散歩道を散策するのが、家族の習慣だったんだ。

そのせいか、日本に来ても川沿いをよく散歩する。イギリスと違って高い山があり、立体的で豊かな水の流れが本当に素晴らしい。川は、田畑を潤し、さまざまな経済活動を支えるだけでなく、山から海へと生命の営みを紡ぎ、多様な生態系を維持していくための非常に大切な存在。川の周囲の土壌と植物は、水害を防ぐための大切なスポンジの役割を果たしている。

海外では、生態系に配慮し周辺の環境に調和した「見えない土木工事」が広がりを見せている。河川の専門家が上流から下流まで川全体をトータルに管理し、治水対策が必要な箇所は、ただコンクリートで固めるのではなく、強度や耐用年数を綿密にシミュレーションした上で、できるだけ自然の材料を使い、生態系に配慮した工法を施しているんだ。

テムズ川の氾濫を防ぐ為に2003年に完成した人工河川「ジュビリー川」の周辺には、かつてテムズ川のほとりから失われてしまった自然環境が復元された。幅45メートル、長さ11.6キロにわたる河川は流れを緩くするためにわざと蛇行させ、周囲には十分な広さの河川敷が用意された。そこに野生動物や野鳥、植物などの専門家の指導の下、多くの湿地や葦原が造られ、約25万本もの樹木が植林された。かつては芝生と生け垣くらいしかなかった土地に、自然の美しさを感じさせる景観が登場したことに多くの市民が喜び、憩いの場になっているんだ。

私は13年間に渡りこの『見えない土木』をナチュラルガーデンズMOEGIの至る所で意識し、庭づくりをしてきた。地元の石を積んで段々畑のように花壇を作ることで、土が雨水を蓄え、植物が元気に育つ土壌とともに、鉄砲水を防ぐ役割も担わせている。ウッドチップを敷き詰めた広場もチップの下には砕石が厚く入っていて、水を浸透させている。このガーデンには絶滅危惧種も含め、さまざまな植物が育ち、多種多様な生きものが集まってきている。

こうした考えや手法があちこちに広がり、土木工事が災害により強く、より美しく、より生物の多様性に貢献することができるようになるといいよね。都市部だけでなく、野山、河川、海の環境の劣化が激しい今、発想さえ展開できれば、日本の最先端の土木技術を持ってすれば、決して難しいことではないはずだ。